
市場を読み、戦略整理のためのフレームワーク
僕自身これまで20以上の事業やスタートアップ、大企業の新規事業に関わってきた。
その経験の中で、成功と失敗から多くを学びながら、体系化してきたフレームワークを紹介する。
目の前のプロダクトや競合だけを見るのではなく、背後や流れをしっかりと掴んで市場全体を一つの地形として捉えていく方法だ。
はじめの頃は都度、7 POWERSや孫子の兵法などを始めとした、先人たちの知恵と概念を借り、実践してきた。
今回は、過去の経験や多くの歴史的事実からそれらを自分なりに再言語化し、「7 Field Map(戦略地形図)」 として整理してみたい。
市場は常にフラットではない
まず前提となる話から始める。
市場は、平らな競技用フィールドではない。
同じ努力をすれば、同じ成果が出るわけではない。
同じプロダクトを作れば、同じように伸びるわけでもない。
規模が大きいほど有利になる坂道があるし、顧客が増えるほど価値が増す場所がある。
既存企業が合理的に無視してしまう谷間があったり、一見小さく見えても、時間とともに本流になる流れがある。
ブランド、チャネル、データ、組織能力、規制、資本、人材、技術変化が重なり合って、企業毎の有利不利を作っている。
だから戦略を考えるときに重要なのは、単に「良いプロダクトを作る」ことだけではない。プロダクトは武器になるが、正しい地形で正しく使わなければその真価を全く発揮しないこともある。
さらにこの激動のAI時代にプロダクトを創る価値は急速にコモディティ化している。価値はディストリビューションや検証に移り変わっている最中だ。
そんな中、自社の立ち位置、戦略、戦術を整理するための基礎的なフレームワークの1つとして7 Field Mapを紹介する。

大企業は地形を変え、スタートアップは突破する。
このフレームワークの中心にある考え方は、シンプルだ。
大企業は、地形を変える。
スタートアップは、地形を選び、突破する。
大企業やWinnerとなった企業(以降大企業と呼ぶ)には、資本、ブランド、顧客基盤、チャネル、採用力、規制対応力、既存アセットがある。
コストリーダーシップが許されるのは常に大企業だ。
大企業は市場の地形を自社の味方に作り変えるほどの影響力を持つことが多い。
一方で、スタートアップは最初から地形を変えられる可能性は少ない。
資本も、人も、ブランドも、チャネルも限られている。
真正面から大企業と戦えば、ほとんどの場合は消耗する。
だからスタートアップにとって重要なのは、最初から強者と同じ場所で戦わないことだ。正しい抜け道を消耗し切る前に最高速度で走るほか無いのだ。
スタートアップは、自社にとって地形が味方する市場を選び、走り抜けられた僅かなプレーヤーが、やがて大きな市場を開拓する権利を得る。
逆に大企業はそうしたスタートアップ、新興企業の動きを予知・察知し、いち早く対応することが求められる。
時には痛みを伴ってでもジレンマを超えなければ、長期的な痛手を追うことも珍しくない。
そうした双方にとっての考え方を1つに整理したのが7 Field Mapである。
1つ大事にしたいのは、自社をスタートアップ、大企業どちらかに分類しないでほしいということだ。
企業体としては大きくても局面としてはスタートアップ的な動きが必要なこともあれば、スタートアップの成長中に、新興企業が出てくることだってある。
日本、世界と範囲を変えれば、TAM, SAM, SOMが変わるとともに競合や市場環境も大きく変わる。ということ前提に読んでほしい。
最後にはAIで事業分析が可能なmdファイルを配布しているので、ぜひ活用いただけると嬉しい。
戦略地形図の7つの要素
市場の地形をどう読むのか。
自分の中では、次の7つの要素で分解している。
場
歪み
流れ
力
進路
陣形
源泉
この7つを順番に見ることで、市場の見立てから、事業の進路、実行の形、そして「なぜ自分がやるのか」までをつなげて考えられる。

1. 場:どこで戦っているのか
最初に見るべきは、そもそもどの市場で戦っているのか、ということだ。
これは簡単そうで、実はかなり難しい。
多くの場合、企業は自分たちの市場をプロダクトカテゴリで定義してしまう。
しかし、顧客が本当に買っている価値は、カテゴリ名とは違うことがある。
Web制作ツールを売っているように見えて、実際には企業のマーケティング運用を支えているのかもしれない。
ソフトウェアを売っているように見えて、実際には組織の意思決定の摩擦を減らしているのかもしれない。
戦場の定義を間違えると、競合も、顧客も、勝ち筋も見誤る。
すべてのベースとなるとても重要な要素だ。

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問いとしては、たとえばこうなる。
顧客は本当は何にお金を払っているのか
自社はどの市場で戦っていると定義しているのか
その市場定義は狭すぎないか、広すぎないか
競合は同業か、代替手段か、内製か
市場の境界はどこで変わり始めているか
最初に問うべきなのは、「自社は何を作っているのか」ではなく、「顧客は何を解決するために、自社を使っているのか」 だと思う。
2. 歪み:どこに不満や矛盾があるのか
次に見るのは、市場の歪みだ。
歪みとは、顧客が仕方なく受け入れている不便や、既存の仕組みが抱えている非効率のことだ。
高すぎる。
遅すぎる。
分断されている。
専門家に依存しすぎている。
改善サイクルが回らない。
業界の慣習で複雑になっている。
こうした歪みは、新しい事業の入口になる。
イノベーションのジレンマと言われるように、既存企業は必ずしも愚かだから変化を見落とすわけではない。
むしろ合理的だからこそ、既存顧客、既存利益、既存評価軸に最適化される。
その結果、最初は小さく、粗く、利益が薄く見える市場を見落としやすい。

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問いとしては、こうなる。
顧客が仕方なく受け入れている不便は何か
高すぎる、遅すぎる、複雑すぎるものは何か
分断されている業務や体験はどこか
既存企業が合理的に無視している顧客は誰か
過剰品質または過小品質になっている領域はどこか
スタートアップにとっては、歪みが入口になる。
大企業にとっては、歪みを放置すると、そこが崩壊の入口になる。
攻撃と守備どちらにも活用できるので、ぜひ自社の立ち位置を整理してみてほしい。
読んだことがある方も多いと思うが、参考としては逆説のスタートアップなどが歪みという意味ではわかりやすい。
これから必ず大きくなるであろう、隠れた歪みを見つけられるか。が勝負になる。
3. 流れ:何が市場を動かしているのか
3つ目は、流れだ。
市場は止まってくれない。
技術、規制、資本、人材、顧客行動、社会の価値観は常に動いている。
今は小さな市場でも、流れが味方すれば大きくなる。
今は強い企業でも、流れに逆らっていれば少しずつ苦しくなる。
特に今は、AIによって多くの市場の前提が変わりつつある。
整理する時間が減り、作るコストが下がっている。
これまでは専門家にしかできなかったことが、より多くの人に開かれ、ソフトウェアの使い方そのものが変わる。
その結果、業務の分担も、組織の形も変わる。
戦略を考えるときには、現在の市場規模だけでなく、その流れを見る必要がある。
どちらに水が流れているのか。どこから風が吹いているか。
どの変化が一時的な流行で、どの変化が構造的なのか。

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問いとしては、以下になる。
技術、規制、資本、人材、顧客行動はどちらへ動いているか
AIによってコスト構造や提供価値はどう変わるか
いま小さいが、将来大きくなりそうな変化は何か
一時的な流行は何か、それは構造変化を生み出すか
3年後に当たり前になっていそうな行動は何か
ここを見誤ると、今は正しく見える戦略が、数年後には逆風になる。
オムロンの「SINIC(サイニック)理論」などは流れを掴むうえで大変参考になる理論のひとつなので紹介しておく。
SINIC理論とは、創業者の立石一真らが1970年国際未来学会で発表した未来予測理論です。立石一真は「事業を通じて社会的課題を解決し、よりよい社会をつくるにはソーシャルニーズを世に先駆けて創造することが不可欠になる。そのためには未来を見通す羅針盤が必要だ」と考え、自ら未来研究を行い、理論を構築しました。
4. 力:誰がなぜ強くなるのか
4つ目は、力だ。
これは7 POWERSで提唱されている概念で、企業が長期的に利益を守るための構造的な力を見る。
短期的に売れているかどうかだけではなく、その成長が将来どんな防御力に変わるのかを見る。

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問いとしては、こうだ。
規模の経済は働くか
ネットワーク効果はあるか
スイッチングコストは積み上がるか
ブランドは選択理由になるか
希少資源を押さえられるか
模倣困難なプロセスは作れるか
既存企業が真似しにくいポジションを取れるか
事業は、伸びるだけでは足りない。
伸びた先で、守れる構造になっている必要がある。
大企業としてはどう力を拡大し、守りを固めるか。
逆にスタートアップはどう戦っていくか。の足がかりにもなる。
「7 POWERS 最強企業を生む7つの戦略」を読んだことのない方はぜひ読んでみてほしい。
僕がよく聞くPodcastの1つである尾原和啓さん、けんすうさんによる「ハイパー起業ラジオ」では7 POWERSをよく取り上げられているので、こちらを聞くのもおすすめだ。(個人的にはNETFLIXを題材に取り扱う全11回がわかりやすくて好きです。)
5. 進路:どちらへ進むべきか
5つ目は、進路だ。
ここで重要なのは、「魅力的な市場」と「自社が勝てる市場」は違うということだ。
大きな市場だから良いとは限らない。
成長市場だから勝てるとも限らない。
競合が少ない市場でも、顧客の課題が弱ければ伸びない。
常に市場は動いているのだから、今見えている市場と規模だけだと見誤る。

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問いとしては、こうなる。
市場の中心を取りに行くべきか、周辺から入るべきか
既存の評価軸で勝つのか、新しい評価軸を作るのか
大企業が入りにくい場所はどこか
自社の強みが最も効く市場はどこか
伸びる市場ではなく、勝てる市場はどこか
進路には型があり、6つ目で紹介するの「陣形」との親和性が高いので、合わせて分析することをおすすめする。(こちらはオリジナルなので、他にも型や整理があればぜひご意見を。)
進路の型 | 意味 | 向いている状況 | 相性のよい陣形 |
|---|---|---|---|
中心攻略型 | 既存市場の中心顧客や中心用途を取りに行く | 自社に明確なプロダクト優位、ブランド、資本、チャネルがある | 大企業深耕型、ブランド想起型、標準化型 |
周辺侵食型 | 強者の中心市場を避け、周辺の顧客や用途から入る | 既存企業が小さすぎる、粗すぎる、利益が薄いと見ている領域がある | 市場集中型、市場拡張型、体験変革型 |
新市場創出型 | まだ市場として明確に認識されていない顧客行動や用途を立ち上げる | 技術変化やAIによって、これまで存在しなかった体験が可能になる | 体験変革型、コミュニティ駆動型、ブランド想起型 |
評価軸転換型 | 既存市場の勝ち筋とは違う評価軸を作る | 既存市場が高機能、高価格、複雑さに寄りすぎている | 体験変革型、市場集中型、ブランド想起型 |
顧客階層移動型 | SMBからエンタープライズへ、またはエンタープライズからSMBへ広げる | 既存顧客層で得た強みを、別の顧客階層へ展開できる | 大企業深耕型、市場拡張型、パートナー連合型 |
バリューチェーン移動型 | 顧客業務の上流、下流、隣接工程へ広げる | 既存プロダクトが業務フローの一部に深く入り込んでいる | エコシステム形成型、大企業深耕型、標準化型 |
ルール形成型 | 業界の評価基準、業務フロー、データ形式、購買基準を変えに行く | 自社に業界を巻き込む力、標準化できるプロダクト思想、パートナー網がある | 標準化型、エコシステム形成型、ブランド想起型 |
進路の決定とは、単に市場を選ぶことではない。
自社の力と市場の地形が噛み合う方向を選ぶことが重要だ。
6. 陣形:どう組めば勝てるのか
6つ目は、陣形だ。
どれだけ良い進路を選んでも、組織や資源配分が合っていなければ実行できない。
戦略は、最後は陣形に落ちる。

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問いとしては、こうなる。
どの顧客を優先し、どの顧客を捨てるか
プロダクト、営業、マーケ、CS、パートナーをどう組むか
どのKPIを追うべきか
どの資源を集中投下するか
既存事業と新規事業を同じ組織でやるべきか、分けるべきか
陣形にも、いくつかの型がある。
陣形の型 | 意味 | 向いている状況 | 相性のよい進路 |
|---|---|---|---|
市場集中型 | 小さな市場、特定業界、特定顧客層に絞って突破する | 限られたリソースで、狭い市場から勝ち筋を作る必要がある | 周辺侵食型、評価軸転換型、新市場創出型 |
市場拡張型 | 最初の勝ち筋を起点に、隣接市場や周辺用途へ広げる | 初期市場で得た強みを、隣接領域に展開できる | 周辺侵食型、顧客階層移動型、バリューチェーン移動型 |
大企業深耕型 | 大企業の権限管理、セキュリティ、運用支援まで含めて深く入り込む | 大企業導入の要件を満たし、長期運用まで支援できる | 中心攻略型、顧客階層移動型、バリューチェーン移動型 |
エコシステム形成型 | 供給者、利用者、代理店、制作会社、SIer、パートナーを巻き込んで面を取る | 自社単独ではなく、周辺プレイヤーを巻き込むほど強くなる | バリューチェーン移動型、ルール形成型、新市場創出型 |
コミュニティ駆動型 | ユーザー、クリエイター、開発者、ファンの参加を成長の力に変える | ユーザー参加や発信が、認知、改善、流通につながる | 新市場創出型、評価軸転換型、周辺侵食型 |
ブランド想起型 | 「この用途ならこの会社」という第一想起を取りに行く | 用途やカテゴリを代表するブランドになることが重要になる | 中心攻略型、評価軸転換型、新市場創出型 |
体験変革型 | AIや自動化で、既存体験を速く、安く、賢くする | 技術変化によって、既存体験のコストや品質を大きく変えられる | 新市場創出型、評価軸転換型、周辺侵食型 |
標準化型 | 業界の業務フロー、データ形式、運用ルールを自社起点で標準化する | 自社のやり方を業界の基準やフォーマットにできる可能性がある | ルール形成型、中心攻略型、バリューチェーン移動型 |
言葉として美しい戦略でも、組織の形、意思決定、評価指標、リソース配分に落ちていなければ機能しない。というのは言うまでもない。
7. 源泉:なぜ自分がやるのか
最後に見るのは、源泉だ。
このブログ自体のテーマでもあり、これは、いわゆる Why You / Why Me の問いでもある。
とても簡単にまとめると、Whyから始めよ!ということだ。
戦場が魅力的で、歪みがあり、流れも来ていて、力も築けそうで、進路も見えていて、陣形も組める。
それでもなお、最後に問うべきことがある。
それは、自分がやる必然性はあるのか、Whyは何なのかということだ。
必然性は、単なるストーリーではない。
創業者や経営チームの原体験。
自社の歴史。
これまで積み上げてきた顧客基盤。
組織文化。
プロダクト思想。
ブランドへの期待。
それらを総合して、自分がやるべき理由を明確にする必要がある。

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問いとしては、こうだ。
なぜこの市場を、自分がやるべきなのか
創業者や経営チームの原体験とどう接続しているか
自社の歴史、資産、顧客基盤、文化とどうつながっているか
他社ではなく自社だからこそ持てる視点は何か
顧客はなぜ自社に期待するのか
採用候補者やパートナーは、なぜこの挑戦に参加したくなるのか
この事業を10年、30年続ける理由はあるか
必然性がない戦略は、賢く見えても薄くなる。
逆に、必然性がある戦略は、多くを味方につけやすい。
戦略とは、地形との付き合い方である
最後におさらいすると、7 Field Mapは「場」「歪み」「流れ」「力」「進路」「陣形」「源泉」から成る。

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戦略は、気合いやスローガンではない。
市場の地形を読み、自社がどこに立つべきかを決めることだ。
そして、立った場所で少しずつ地形を味方につけていくことだ。
大企業は、地形を変える選択肢を持つ。
スタートアップは、地形を選び、挑む。
そして最後に、自分たちがやる必然性、源泉であり、Whyを問う。
ただし、スタートアップも成長すれば、やがて地形を変える側に回る。
大企業も、地形の変化を読み違えれば、いつの間にか不利な場所に立たされる。
繰り返しになるが、どちらかの視点しか持たないのではなく、どちらの視点も持つことをおすすめしたい。
チェックリストと意見交換について
このフレームワークを自社の事業に当てはめられるように、7 Field Map の分析用mdファイルを用意した。
無料でmdファイルを配布するので、ぜひ自社の立ち位置や戦略を見直すきっかけにしていただけると嬉しい。
フォームでの情報入力などは一切無しにダウンロードできるようにしているので、その代わりと言っては何だが、SNSやブログへの感想投稿やシェアにご協力いただけると大変ありがたい。
【チェックリスト導線】
7 Field Mapのmdファイルをダウンロード
また、新規事業、既存事業、スタートアップ、経営戦略について、この「7 Field Map」を使って壁打ちや意見交換をしたい方は、ぜひご連絡してもらえるとうれしい。
※限りある時間の中でにはなりますが、市場の見立て、事業の進路、競合環境、AIによる構造変化、Why You / Why Me の整理など、雑談ベースでも歓迎です。
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この記事に出てきた概念・定義(源泉辞書)
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